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「プロトタイピング戦略」を立てて、プロトタイピングの効率性と生産性を最大化。

2020.5.20


プロトタイピングは新製品開発の中で最も重要な活動の一つであるとされるなど、重要性が指摘されています (*1)。ただ、それと同時に最も探求されていない分野の一つです(*1)。

プロトタイピングの生産性を最大限に高めるには、プロトタイピングをどのように行うかを、慎重に検討する必要があります(*2)。一方で、プロトタイピングは多様な対象分野、実施方法が存在しており(*3,4)、どのようなプロトタイピングを行えば効果的か、明確な指針がないのが現状です(*5,6)。

重要だけれども、どのように実施するかがわかりづらいプロトタイピング。その課題に対して有用なのが、どのようにプロトタイピングを実施するかを規定して、実施をサポートする「プロトタイピング戦略」です。

■ どのようにプロトタイピングを実施するかを決める「プロトタイピング戦略」

プロトタイピング戦略はどのようにプロトタイピングを実施するかを決めるためのもので、構成している要素が3つあります。それが、「目的の特定」「リソースの検討」「構築とテスト方法」で、それぞれの要素ごとに検討が必要です(*7)。

プロトタイピング戦略の各要素と必要な項目のイメージ
プロトタイピング戦略の各要素と必要な項目のイメージ


以下にて、プロトタイピング戦略の要素である、「目的の特定」「リソースの検討」「構築とテスト方法」についてそれぞれ確認していきます。


プロトタイピング戦略要素1:目的の特定
プロトタイピングを行う目的を特定します。プロトタイピングにはさまざまな目的がありますが、ここでは3つ取り上げています(*8)。いずれかの目的を選択することもありますし、複数の目的を同時に選択することもあります。

・目的①コミュニケーション
アイデアやコンセプトを形にすることで、共通の言語が形成され、それぞれの認知的負担を軽減し、コミュニケーションの円滑化に繋がります。また、実証的な研究の結果では、チーム内で複数のプロトタイプを共有することにより、設計結果、グループコミュニケーション、およびグループの信頼性が向上することがわかっています(*9)。

・目的②学習
プロトタイピングを通して、対象とする領域、技術的な要素、ユーザーニーズなどに関する新しい情報の学びを得るなど、さまざまな学習が促進されます。例えば、「ダークホースプロトタイピング」という手法を用いて、予期せぬ気づきを得ることで革新的なアイデアを生み出すことにつながります(*10)。アイデアに関連すること以外でも、システムの機能について検討する際に、機能の洗い出しの精度を高め、不確実性の低減にもつながることも示されています(*11)。

・目的③意思決定が行われる
プロトタイプをつくることで、前に進むか、一時停止して調整するか、または完全に中止するかの意思決定を行うことができます。これらの意思決定は、ユーザーに提供できる価値についての有用性(Desirability)、実際につくることができるかの実現可能性(Feasibility)、継続して提供できるかの持続可能性(Viability)の3つの観点から行うことが可能です。


プロトタイピング戦略要素2:リソースの検討
プロトタイプを構築する際に、材料・時間・コストを含む、利用可能なすべてのリソースを検討していきます。どのようなリソースが利用可能であるかと、それらの取得する方法についてまとめます。
利用する材料は、プロトタイピングしたい対象にもよりますが、簡易的なもので問題ありません。例えば、Northwestern Universityでは、輪ゴムや布、テープや糸などが収納された「Mockup Materials Cart」を常備し、プロトタイプがすぐにつくれるようにしています。


Mockup Materials Cart
Mockup Materials Cart


プロトタイピング戦略要素3:構築とテスト方法
プロトタイプをどのように構築するのか、どのようにテストをするのかを決定していきます。構築とテスト方法は、「ビルディングプラン(Sketch & Build Plan)」と「テストプラン(Testing Plan)」と「プロトタイピングのアプローチ(Prototyping Approaches)」の3つに分かれます。

・ビルディングプラン(Sketch & Build Plan)
プロトタイプの材料・種類・具体的な構築方法を検討します。構築する際には、基本的に、もっとも簡単につくれる方法を模索します。

簡単につくれる方法を模索する理由は、簡易的な(低忠実度の)プロトタイプを早期に作成することで、主要なインターフェースの問題を80%解決し、結果としていきなり最終形に近い(高忠実度の)プロトタイプ を作成するよりも効率化するためです(*12)。
ただ一方で、最終成果物の要求や仕様が確定した後は、最終成果物に近い高忠実度プロトタイプを使用することが推奨されているため(*13)、最終成果物がかなり明確に決まっている場合は、最終成果物に近いプロトタイプを構築することを意識しましょう。

・テストプラン(Testing Plan)
プロトタイピングの目的に即して、プロトタイピングを実施した際に得たいことを明確にします。例えば、プロトタイピングによりますが、「仮説/質問をどのようにテストするか」「どのように成功か失敗かを定量的・定性的に評価するか」「どの領域のデザイン空間の探索を行いたいか」などを明確化しておきます。

・プロトタイピングのアプローチ(Prototyping Approaches)
目的やリソース、得たい内容に応じて、プロトタイピングの実施方法を具体的に検討します。例えば、紙を用いたペーパープロトタイピングを行うのか、体験することでデザイン空間を探索する「Experience Prototyping」を行うのか、ファクトに基づいたテクノロジーと、フィクションを行き来することで、新しい概念を生み出す「SFプロトタイピング」を行うのか、実行可能でない、リスクが高すぎるアイデアをわざと試すことで新規性の高い気づきを得る「ダークホースプロトタイピング」を行うのかについて検討を行います。



以上がプロトタイピング戦略に関する内容です。これらをしっかりと検討していくことで、プロトタイピングの効率性と生産性を最大化していきましょう。

また、このプロトタイピング戦略をビジネスモデルキャンバス・リーンキャンバスのような1枚のシートに記載していくことでまとめていくことができる、「プロトタイピングキャンバス」も2019年の研究が発表されています。こちらもぜひご利用ください。





(*1) Wall, M. B., Ulrich, K. T., & Flowers, W. C. (1992). Evaluating prototyping tech- nologies for product design. Research in Engineering Design, 3(3), 163e177.
(*2)P J Mayhew and P A Dearnley: Organization and management of systems prototyping;Information and Software Technology Volume 32, Issue 4, May 1990, Pages 245-252(1990).
(*3)Bernhard,S.,&Falk,U.,&Walter,B: A Method for the Management of Service Innovation Projects in Mature Organizations;Best Practices and New Perspectives in Service Science and Management,pp261-263(2013).
(*4)David,P.,&Kyo,C,K: A Classification and Bibliography of Software Prototyping; CMU/SEI-92-TR-013.Software Engineering Institute,Carnegie Mellon University, pp16-21(1992).
(*5)松井千里、 郷健太郎、 and 今宮淳美: 忠実度の異なる素材の再利用性を考慮したプロトタイプ構築支援; 電子情報通信学会論文誌 D 88.2, pp196-204(2005).
(*6)Christie, E.J. & Jensen, Daniel & Buckley, R.T. & Menefee, D.A. & Ziegler, Kyle & Wood,Kristin & Crawford:Prototyping strategies: Literature review and identification of critical variables; ASEE Annual Conference and Exposition, Conference Proceedings(2012).
(*7)Lauff, Carlye, Jessica Menold, and Kristin L. Wood(2019), "Prototyping Canvas: Design Tool for Planning Purposeful Prototypes." Proceedings of the Design Society: International Conference on Engineering Design. Vol. 1. No. 1. Cambridge University Press.
をベースに構築
(*8)Lauff, Carlye, Kotys-Schwartz, Daria, and Rentschler, Mark E. "What is a Prototype?: Emergent Roles of Prototypes From Empirical Work in Three Diverse Companies." Proceedings of the ASME 2017 International Design Engineering Technical Conferences and Computers and Information in Engineering Conference. Volume 7: 29th International Conference on Design Theory and Methodology. Cleveland, Ohio, USA. August 6–9, 2017. V007T06A033. ASME.
Roleを目的に意訳しています
(*9) Dow, S., Glassco, A., & Kass, J. (2011). The effect of parallel prototyping on design performance, learning, and self-efficacy. In ACM Conference on . (pp. 10).
(*10) Bushnell, Tyler & Steber, Scott & Matta, Annika & Cutkosky, Mark & Leifer, Larry. (2013). USING A "DARK HORSE" PROTOTYPE TO MANAGE INNOVATIVE TEAMS. 10.13140/2.1.2361.7602.
(*11)Wood, David; & Kang, Kyo. A Classification and Bibliography of Software Prototyping. CMU/SEI-92-TR-013. Software Engineering Institute, Carnegie Mellon University. 1992.
(*12) Heaton, N. What’s wrong with the user interface: How rapid prototyping can help. In IEE Colloquium on Software Prototyping and Evolutionary Digest London, IEE (1992), Digest No. 202, Part 7, pp. 1-5, Kinoe
(*13)J. Rudd, K. Stern, and S. Isensee, “Low vs. high-fidelity prototyping debate,” ACM Interactions, vol.3, no.1, pp.76–85, 1996.

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