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ビジネスモデルキャンバス、リーンキャンバスから派生した、「プロトタイピングキャンバス」でより戦略的なプロトタイピングを

2020.4.9


ビジネスモデルキャンバス、リーンキャンバス・・・・。ビジネスモデルや新規事業などを可視化するためのツールとして、必要な情報を記載していくことで全体像の把握ができる手法の「キャンバス」。このキャンバスのレイアウトと構造を活用して、プロトタイピングを行うためにまとめたものが、Lauff らにより2019年の論文(*1)で発表されたので、ご紹介します。

デザインプロセスで「プロトタイピングをどのように行うか」というプロトタイピング戦略は、Menoldなど(*2)によって、研究が進められてきています。ただ、研究した結果を導入するために手法化したとしても、使われることが少ないという問題点がありました。そこで、より簡単に使用できるツールを開発し、プロトタイピング手法の利用を増やすために、「プロトタイピングキャンバス」がLauffらにより開発されました。


出典:Design Innovation "Prototyping Canvas"



■ プロトタイピングキャンバスとは何か?

プロトタイピングキャンバスは、戦略的にプロトタイピングを実施するためのツールであり、シンプルなプロトタイプを構築するようにガイドしてくれます。所要時間は45分程度で、これにより、意図的にプロトタイピングの実践を促し、リソースの削減や設計成果の向上につなげることが可能になります。



■ プロトタイピングキャンバスの構造

プロトタイピングキャンバスを構築する過程で、先行研究のレビューから、プロトタイプの作成に必要な要素を抽出し、3つの原則に要約されています。

1. プロトタイプの目的の特定
すべてのプロトタイプはテストするための仮説があり、その前提条件と検証事項を特定する必要がある。

2. プロトタイプを構築するためのリソース
プロトタイプを構築するとき、できる限りシンプルにするために、材料・時間・コストを含む、利用可能なすべてのリソースを慎重に検討する必要がある。

3. プロトタイプの構築とテストを実行するための戦略
効果的なプロトタイプ構築のためには、構築とテストのための計画とアプローチを策定する必要がある。

そして、このプロトタイプの作成に必要な3つの原則が、プロトタイピングキャンバスの要素にマッピングしてあります。



■ プロトタイピングキャンバスの各項目

プロトタイプの作成に必要な3つの原則をプロトタイピングキャンバスにマッピングした、プロトタイピングキャンバスの利用者が記載していくべき要素は以下になります。

○1.プロトタイプの目的の特定

・ステークホルダー(Stakeholders)
エンドユーザー、消費者、顧客、プロジェクトマネージャー、投資家、メーカーなどを含む、プロジェクトに何らかの利害関係を持つすべての人をステークホルダーとし、それらを記載する。

・プロトタイプのためのコミュニケーション戦略(Communication Strategy for Prototype)
ステークホルダーにプロトタイピングを実施する際にどのようにしてコンセプトを説明し、フィードバックを集め、要件を交渉し、ステークホルダーを説得するかの戦略を記載する。

・仮説と質問(Assumptions & Questions)
ソリューションに関するあらゆる仮説とそれに伴う質問を記載する。検討を容易にするためのフレームとして、Human Centered Designの3つのレンズ「実現可能性(feasibility)」、「有用性(desirability))、「持続可能性(viability)」をベースにした3項目が用意されている。

・重要な仮説と質問(Critical Assumptions / Questions)
「仮説と質問」の評価を行い、どれがソリューションの成功にとって最も重大であるかを決定し、記載する。ここで記載された仮説と質問について優先的にプロトタイピングを実施する。


○2.プロトタイプを構築するためのリソース

・利用可能なリソース(Resources to Build)
重要な仮説/質問をテストするために最も単純なプロトタイプを構築することができるように、材料、お金、人、時間というリソースについて、どのようなリソースが利用可能であるか、取得する方法について記載する。


○3.プロトタイプの構築とテストを実行するための戦略

・ビルディングプラン(Sketch & Build Plan)
検討したプロトタイプをスケッチし、プロトタイプをつくる前に、材料の選択・プロトタイプの種類・プロトタイプの具体的な構築方法などの計画を記載する。目標は、関連するステークホルダーを念頭に置きながら、重要な仮説/質問を構築してテストするための最も簡単な方法を決定すること。

・テストプラン(Testing Plan)
プロトタイピングで検証したい内容を明確化するために、次の質問への回答を記載する。「どのようにプロトタイプを使って、あなたの仮説/質問をテストしますか?」「どのようにして成功か失敗かを定量的・定性的に評価しますか?」「テストには時間、場所、人、材料の観点で何が必要ですか?」

・プロトタイピングのアプローチ(Prototyping Approaches)
以下の13のプロトタイピングアプローチを参考にして、参考になりそうなものにチェックをつける。 「パラレルプロトタイピング」「反復プロトタイピング」「サブシステムの分離」「スケーリング」「要件緩和」「不要な機能を取り除く」「Wizard-of-Oz」「既存製品を再利用する」「経験プロトタイピング」「ペーパープロトタイピング」「ロールプレイング」「ストーリーボード」「モックアップ」

・インサイト
プロトタイプをテストした後に生じた新しい仮説や疑問についての気づきであるインサイトを記載する。



■ プロトタイピングキャンバスの使用の流れと参考資料

プロトタイピングキャンバスはどこから記入しても良いのですが、推奨されているのは「ステークホルダー」と「仮説と質問」からはじめ、左から右に移動し、「インサイト」を記述する流れです。また、プロトタイピングキャンバスを構築した研究者たちが、無料のオンラインデザインイノベーション(DI)学習モジュールを立ち上げており、プロトタイピングキャンバスに関する説明動画などもあるので、参考にしてみてください
こちらに、プロトタイピングキャンバスを用いてデザインを行った例が掲載されていますので、引用して紹介します。

出典:Design Innovation "Prototyping Canvas"


ぜひ、プロトタイピングを具体的にどう実行したら良いかわからない、と感じたら、プロトタイピングキャンバスを用いてみてください。





(*1) Lauff, Carlye, Jessica Menold, and Kristin L. Wood(2019), "Prototyping Canvas: Design Tool for Planning Purposeful Prototypes." Proceedings of the Design Society: International Conference on Engineering Design. Vol. 1. No. 1. Cambridge University Press.
(*2) Menold, J., Simpson, T.W. and Jablokow, K. (2018), “The prototype for X framework: exploring the effects of a structured prototyping framework on functional prototypes”, Research in Engineering Design, pp.1–15.

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