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実行可能でない、リスクが高すぎるアイデアをわざと試す「ダークホースプロトタイピング」の価値。

2020.2.3


商品・サービス・事業など、さまざまな新しいことを行おうとする際に考える「アイデア」。何か良いアイデアが浮かんだときに、それを詰めて企画書や事業計画書にまとめ、社内に展開し・・・・・、と実施していくのが一般的なプロセスかと思います。本稿でご紹介したいのは、その思い浮かんだアイデアを詰めて資料化する前に、ぜひやっていただきたいプロトタイピングです。

それは、ダークホースプロトタイピングというプロトタイピング手法で、実行可能でない、リスクが高すぎるために以前考えたけれども却下したアイデアや、まったく試したことがないアイデアのプロトタイプをつくってみる、というものです。

このダークホースプロトタイピングは、1999年にスタンフォード大学の教授、Mark Cutkoskyによって提示され、スタンフォードME310設計エンジニアリングプログラムのツールとして、長年にわたり、予期せぬ気づきと、それに伴う革新的な結果を生み出し続けてきました。

ダークホースプロトタイピングの「ダークホース」は、成功する可能性が低いと考えられる競争相手を意味します。語源となった競馬では、ほとんど勝つとは思われていないものの、もし勝った場合には大きなリターンを得ることができる馬のことを指します。
この語源から想定されるように、ダークホースプロトタイピングは、実行可能でない、リスクが高すぎるアイデアのプロトタイプをつくることで、アイデアに関する予期せぬ気づきを得て、もっと大きく、より創造的に考えることを可能にし、革新的な結果を生み出します。(Carleton et al. 2009)(*1)

Bushnellら(*2)によると、ダークホースプロトタイピングを実行する上でのポイントは3点存在します。(Bushnell et al. 2013)

1.プロトタイプをつくる上での進むべき道は「dark」であり、見えづらい。
2.アイデアのビジョンがある程度できた後に、探索される。
3.客観的にテストされる必要がある。

以上のポイントを踏まえて、ダークホースプロトタイピングの「目的」と「実施方法」と「注意点」と「定量的な研究」についてご説明します。

■ 目的
自分が設計しているソリューションにおいて、ある程度答えがまとまり、アイデアのカタチやビジョンが形作られた段階で、設計空間を広げ、予期せぬ洞察を得ることで革新的なアイデアを生み出すために行う。

■ 実施方法
実行可能でない、リスクが高すぎるために以前考えたけれども却下したアイデアや、まったく試したことがないアイデアのプロトタイプをクイックに作成する。

■ 注意点
設計チームの仮定と先入観によりバイアスがかかり、正しい判断が行えなくなる可能性があるので、客観的なユーザーによるテストがプロトタイプを正しく評価する唯一の方法となる。(Bushnell et al. 2013)

■ 定量的な研究
Luiz Durãoら(*3)は、6年間の59のプロジェクトで定量的にダークホースプロトタイピングについて調査を行い、以下の結論を示した。(Luiz Durão et al. 2018)

・技術的に困難なダークホースプロトタイピングが最終的なソリューションに影響を与える可能性が高い
・ダークホースプロトタイピングは、プロジェクトの方向性の明確な変化や全体的な最終ソリューションの改善につなげる

つまり、ダークホースプロトタイピングを行うことで、最終的なソリューションの改善につながる可能性がある。そして、特に技術的に困難なプロトタイプを制作することで、その可能性が高まることが示されている。

また、ダークホースプロトタイピングの事例として、Bushnellらが論文内で示しているものをご紹介します。
フランスの精密光学メーカーのAngénieuxからの依頼で、「次世代の映画/ブロードキャストイメージングシステムの設計」を実施。最初は視聴者側の視点でソリューションを検討しており、良いソリューションが出ませんでした。そこで、ダークホースプロトタイピングとして、技術的に難易度が高く、検討を全くしていなかった「視聴者の頭と目の位置がシーンの遠近感と焦点の両方に影響する没入型の映画鑑賞体験」のプロトタイプを制作。

このプロトタイピングにより、視聴者側ではなく、映画作成者側の視点でのソリューションに変化し、今までにない価値を見出しました。デザインチームは以前の映画監督へのインタビューで、監督はしばしば自分の撮影機器により表現が制約されており、各撮影ショットがカメラ操作者によって薄められたり誤解されたりするリスクがあるように感じるとの発言を聞いていました。そこで考えたアイデアが、「カメラのない映画セット」でした。常に映像を記録することで、好きなショットを監督が選択できるようになりました。これを「OmniCam Studio」と呼び、監督から好評を得ました。


以上のように、ダークホースプロトタイピングはソリューションの開発プロセスの初期のアイデアを構築している段階において、非常に効果的な働きをします。ぜひ、良いアイデアが生まれた、と感じたら、一度足を止めて、実行可能性が低く、リスクが高すぎるアイデアのプロトタイプをつくってみてください。





(*1)Carleton T, Cockayne W. “The Power of Prototypes in Foresight Engineering”, in Int. Conf. Eng. Des. ICED’09, Stanford; 2009: 24–27.
(*2)Bushnell, Tyler & Steber, Scott & Matta, Annika & Cutkosky, Mark & Leifer, Larry. (2013). USING A "DARK HORSE" PROTOTYPE TO MANAGE INNOVATIVE TEAMS. 10.13140/2.1.2361.7602.
(*3)Durão, Luiz & Kelly, Kevin & Nakano, Davi & Zancul, Eduardo & Mcginn, Conor. (2018). Divergent prototyping effect on the final design solution: the role of "Dark Horse" prototype in innovation projects.

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