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チームで取り組むことで「クリエイティブ・コンフィデンス」を得る

2019.8.19


■ クリエイティブ・コンフィデンスとは何か?

IDEOの創業者であるトム・ケリー氏とデイビッド・ケリー氏著 “Creative Confidence”の中で、”gain confidence in your creative ability”という記載があります。本記事では、クリエイティブ・コンフィデンスを、その言葉を日本語に訳して「自分の創造力に自信を持つこと」と定義します。

特に日常のビジネス場面では、常識や前例にとらわれず創造的であることよりも、正解や適切さを求められていると感じ、創造力を働かせることを躊躇してしまうことが誰しもあると思います。学校でも、家庭でもそのようなことを感じたことがあるかもしれません。
いかなる環境でも、自分の創造力に自信を持ち、創造力を働かせられる人は「クリエイティブ・コンフィデンス」が高い、と言えます。
それは、変われる能力を信じる、ということでもあります。 書籍”Creative Confidence”では、ヘビ恐怖症の人の恐怖を取り除くために、心理学者Albert Banduraが取った以下のステップが紹介されています。

① 隣りの部屋にヘビがいることを伝える
② 手の届く距離まで近づけるようにステップを刻む。たとえば、マジックミラー越しにヘビを持っている人に質問して、ヘビは人を巻き付いて窒息させてくるわけではないことを知るなど。
③ 2を繰り返したあと、ヘビがいる部屋の扉の前に立つように促す。怖ければ、一緒に立つこともできると伝える

上記のステップを経ることで、最終的には誰もがヘビのすぐ隣まで行くことができるそうです。そして、ヘビへの恐怖もすっかりなくなっているそうです。
Banduraの試みでは、ステップを経ることで、変われる能力を信じるシステムに変化が起きることがわかりました。この信念を持つことによって、人はより厳しくチャレンジに耐え、より長く粘り、障害や失敗へのレジリエンスが高まると言われています。Banduraは、この信念を”self-efficacy”(自己効力感)と呼びます。



■ クリエイティブ・コンフィデンスがあると実現できること

書籍“Creative Confidence”では、クリエイティブな人とはどんな人かについても記されています。 心理学者Robert Sternbergによると、クリエイティブな人は、クリエイティブであることを「決断」しています。実際に、クリエイティブな人が実践していることは以下のことです。

・ソリューションを導き出すために、新しい方法で問題を再定義する
・イノベーションプロセスの一部として、意識的にリスクを取り、失敗を受け入れる
・課題にチャレンジしているときに出てくる障害には立ち向かう
・正しい道を進んでいる自信がない時は、曖昧さを許容する
・スキルや知識を陳腐化させず、知的な成長を続ける

いきなり誰もが考えたこともないような面白いアイデアが思いつく、ということではなく、そこに至るために、問題を再定義し、リスクを自ら取り、好奇心を持って新たな知識や経験を得るプロセスが潜んでいることがわかります。
クリエイティブ・コンフィデンスは、クリエイティブであることを決断し、クリエイティブであり続けるために必要な実践をスタートさせるためのマインドセットだといえます。



■ チームで取り組むことで「クリエイティブ・コンフィデンス」を得る

クリエイティブ・コンフィデンスを得るために何から始めたら良いでしょうか。書籍“Creative Confidence”の中では、一歩ずつ行動し、小さな成功体験を積み上げることがポイントだと述べられています。
小さな成功体験は、個人ではなく、チームでコラボレーションすることによって積むことができるのではないでしょうか。
チームで取り組めば、自分だけでは思いつかないことや実現できないことができるはず。しかし、そもそも個々人のクリエイティビティが高いメンバーが集まれば、チームのクリエイティビティも自ずと高まるのでは?と思われるかもしれません。
チーム・クリエイティビティについてはさまざまな研究がされています。その一部を紹介します。



■ チーム・クリエイティビティと個人のクリエイティビティの関係性

Andrew Pirola-Merlo at el. (2004) (*1)では、チームと個人のクリエイティビティの関係と、チームのクリエイティビティとチームのアウトプットの関係を時系列でみています。
R&Dに取り組む30チーム(1チーム平均2.4名)を対象に9か月間調査を行った結果、主に以下のことがわかりました。

・チームクリエイティビティは、同時期のチームメンバーのクリエイティビティの平均で説明できる。また、チームの中でもっともクリエイティブな人の影響が大きい。しかし、個人のクリエイティビティだけでは、チーム・クリエイティビティは説明できない。
・時系列でチームや個人のクリエイティビティを計測した場合、チームのアウトプットの創造性は、チームが最も高いクリエイティビティを発揮したときの数値で説明できる。


■ チーム・クリエイティビティが高いチームの特徴

Gloria Barczak at el. (2010) (*2) は、チームのEmotional Intelligence(感情的知性)、Team Trust (信頼関係)、Collaborative Culture(協働する文化)と、チーム・クリエイティビティの関係についてアメリカの大学生、82チームを対象に調査しています。その結果、以下のことがわかりました。

チームのEmotional Intelligenceは、信頼を促す。信頼は協働するチームの文化を強化する。そして、チームクリエイティビティを高める。

この研究では、Jordan at el. (2009) (*3)を参照し、Emotional Intelligenceは、自分の感情への気づきとマネジメント、他のチームメンバーの感情への気づきとマネジメントから構成されていると考えられています。
これらの研究結果から、個人のクリエイティビティは確かにチームのクリエイティビティに大きな影響を与えるものの、それだけでは説明できないことがわかります。
そして、チームメンバーを信頼して自己を開示することを恐れなければ、チーム内でコラボレーションが生まれ、それがチーム全体のクリエイティビティの向上に繋がることがわかります。 つまり、個人のクリエイティビティを高めるだけでなく、チームメンバーを信頼して自己開示することもチーム・クリエイティビティの向上に繋がるということです。
仕事や仕事以外の活動においてチームで新しいアイデアを生み出していく過程で、チームメンバーを信頼して自己開示をするところから始めてみてはいかがでしょうか。その過程を通じて、チーム・クリエイティビティの高まりを実感し、小さな成功体験を積み上げ、創造性の力を少しずつ信じられるようになることも、クリエイティブ・コンフィデンスを高める第一歩になると考えられます。



(*1) Andrew Pirola-Merlo and Leon Mann (2004) The relationship between individual creativity and team creativity: aggregating across people and time, Journal of Organizational Behavior 25, 235-257
(*2) Gloria Barczak, Felicia Lassk and Jay Mulki (2010) Antecedents of Team Creativity: An Examination of Team Emotional Intelligence, Team Trust and Collaborative Culture, Journal of Creativity and Innovation Management, 19, 332-343
(*3) Jordan, P.J. and Lawrence, S.A. (2009) Emotional Intelligence in Teams: Development and Initial Validation of the Short Version of the Work-group Emotional Intelligence Profile (WEIP-S), Journal of Management and Organization, 15, 452-469

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