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新規性の高く価値があるアイデアを生むための「問題を捉え直して再定義」する考え方

2019.4.23

日々の仕事の中では、新しい商品・サービスの開発や事業開発、運用の改善などさまざまなシーンで多様な問題に向き合います。「どのように新しい○○をつくるか?」「どのように○○を変更するか?」。そのような問題に、真っ正面から答えようとしていませんか?この記事では、問題を捉え直して再定義することで、新しい答えが出やすくなる考え方をご紹介します。


例えば、「新しい消しゴム」を企画することになったとします。そのときに「新しい消しゴムとは何か?」とストレートに考えると「さらによく消える消しゴム」「丸い消しゴム」などのいきあたりばったりのアイデアになりがちで、なかなか良いアイデアは出てきません。
ただ、もし「消しゴムはやっぱり開封したての最初が一番使いやすいよね」という気づきにもとづき、問題を「どうしたら消しゴムで常に使いたての感覚を味わえるか?」と捉え直して再定義できたとしたら、考える範囲がある程度狭まり、斬新なアイデアが出る気がしませんか?

「どうしたら消しゴムで常に使いたての感覚を味わえるか?」の問題に答える形でアイデアを考えた場合、KOKUYOの「カドケシ」を思いつく可能性があります。この商品の特徴は、名前の通り「カド」が28個もあること。 これにより、細かいところまで綺麗に消せて、真新しいカドで消すときの快感を何度も体験できます。

引用:https://www.kokuyo.co.jp/award/archive/goods/kadokeshi.html




■ 問題定義という概念

このように、考える問題をリフレーミング(捉え直し)し再定義することは、普通の問題に対する答えを考えたときに出てくる、たくさんの普通のアイデアたちの解空間の外側にあるアイデアを出すことにつながります。つまり、以下の図のように、普通のアイデアが出がちな、「通常の解空間」の外側で、かつ「全体の解空間」の内側にある新規性の高いアイデアを探していくことになります。

引用:"システム×デザイン"思考によるイノベーティブ思考法内の図を元に一部調整



さきほどの消しゴムの例であれば、「新しい消しゴムとは何か?」という問題は通常の解空間の内側のアイデアが出る可能性が高く、「どうしたら消しゴムで常に使いたての感覚を味わえるか?」という問題は通常の解空間の外側かつ、全体の解空間の内側のアイデアが出る可能性が高い、ということになります。




■ 「d.School」での問題の再定義の手法提示例

スタンフォード大学の機関である「d.School」はデザイン思考のための実践的ガイドブック"the d.school bootcamp bootleg"を公開しており、その中のMETHOD『"HOW MIGHT WE"QUESTIONS』にて、問題の再定義(リフレーミング)について紹介しています。(*1)

例えば、「国際空港での待ち時間経験を再設計する」という問題に対する新たなアイデアを考えるとします。また、問題の背景に「空港の待ち時間が耐えきれず、他の乗客に迷惑をかけてしまう子供たちを楽しませる必要がある」という条件があったとします。
このアイデアを考える際、普通に考えようとした際の問題は「どうすれば、空港での待ち時間をなくすことが出来るだろうか?」になると想定されます。その問題の再定義を行うと以下のようになります。("the d.school bootcamp bootleg"より一部抜粋)

● 良い面を伸ばす
「どうすれば、他の乗客を楽しませるために子供たちのエネルギーを使えるだろうか?」

● 悪い面を取り除く
「どうすれば、他の乗客と子供たちを離せるだろうか?」

● 反対を探す
「どうすれば、待ち時間を旅行のもっとも楽しい時間にできるだろうか?」

● ニーズや文脈から類推する
「どうすれば、空港をスパや遊び場のようにできるだろうか?」

上記のように"the d.school bootcamp bootleg"では、良い面を伸ばしたり、悪い面を取り除いたりすることで、様々な角度から問題の再定義を行う手法を提示しています。



■ 「INTERACTION DESIGN FOUNDATION」での問題定義の「難易度」と「良い定義の特徴」

グローバルデザイン教育を行う非営利団体であるINTERACTION DESIGN FOUNDATIONでは、問題の再定義はデザイン思考プロセスの中でもっとも困難な部分だと記述しています。理由としては、デザイン思考プロセスの初期段階のユーザーへの共感を踏まえた上で構築する必要があり、アイデアの検証を行うテストの結果を踏まえて随時再定義をしていく必要があるためです。以下の図の「Define」が問題の再定義に相当しており、ユーザーへの共感である「Empathise」が問題の再定義を助け、「Test」が問題を再定義する洞察を明らかにする旨が記載されています。(*2)

引用元:Author/Copyright holder: Teo Yu Siang and Interaction Design Foundation. Copyright terms and licence: CC BY-NC-SA 3.0


また、INTERACTION DESIGN FOUNDATIONでは、良い問題定義の特徴を以下のように3つ提示しています。(*2)

● 人間中心であること
特定のユーザーやそのニーズを対象にして得た洞察を元にして組み立てられた問題であること。さらに、問題は技術・金銭的利益、または製品仕様に焦点を当てるものではなく、ユーザーに関するものであるべき。

● 創造性の余白を持たせる
問題が、アイデアの発想に関する特定の方法に絞りすぎないようにする。また、問題定義には技術的な要件は記載してはいけない。

● 管理できる程度の広さにする
一方で、「人生を改善する」などの問題定義は広すぎるため、考えづらくなってしまう。そのため、管理しやすくする程度の制約が必要。


■ takramの「プロブレム・リフレーミング」

デザイン・イノベーション・ファームの「takram」も、著作『デザイン・イノベーションの振り子』の中で、問題を動かし洗練することで、思考の自由・飛躍の余地を見出し、予定調和の進行から抜け出すことを提示しています。彼らは、問題と答えとの間を反復的に往来することで、問題の質そのものを問い、問題自体の再設定を視野に置くことを「プロブレム・リフレーミング」と呼んでいます。以下はその特徴の抜粋です。(takramでは「問題」を「問い」と記述しているため、以下では「問い」と記述)


● 問いの精度を上げること
初期の問いは情報の総量が少なくそのまま考え始めても思考は行き詰まる。そのため、問いの肉付けをインタビューなどを通して行い、より立体的な血の通ったものにする。すると、問いを構成するさまざまな要素間の整合性や矛盾も細かく認識できるようになる。

● 反復的なプロセスであること
プロブレム・リフレーミングはプロジェクトの過程の中で、繰り返し、反復的に行う必要がある。ストーリー・ウィーヴィングやプロトタイピングを通して「問い」のリフレームの必要性を示唆していないか、常に気に掛ける。

● 「越境性」を包含すること
問いが「建築家への問い」であった場合、問いは建築的文脈を帯びる。ただ、問題をよく観察すると、問いの本質が別の文脈上に存在していることがある。このような状態が発生してしまうため、ひとつの専門性のなかから一歩足を踏み出して、隣の専門家のなかに飛び込み、彼らの意見を聞き、何かヒントが隠れていないか訊いて回る。

● 「超越性」を包含すること
超越性とは、自らのスケールよりも大きな問いを視野に入れることであり、俯瞰する感覚である。ヒエラルキー・時間軸・空間的制約からの超越など、さまざまな超越がある。超越視点を持つことで、自らのスケールよりも大きな問いを視野に入れることができる。すると、プロジェクトの方向性を大きく再定義することが可能になる。


takramではプロブレム・リフレーミングを必要な場面で起こせるようになるには、多くの経験を積む必要があり「この状況ではリフレームが必要なのではないか」と場面場面で気づく感覚を鋭くすること、および、身の回りの小さなことからでもいいので「問いの設定を変えることで、答えはどのように変化するだろうか」と考えるくせをつけることを著作の中で推奨しています。




以上のように、問題が存在しているからその問題をそのまま解こうとするのではなく、その問題自体を捉え直して再定義することで、新規性の高く価値があるアイデアが生まれる確率を上げていくことが可能です。


(*1)https://dschool.stanford.edu/resources/the-bootcamp-bootleg を元に意訳・リライティング
(*2)https://www.interaction-design.org/literature/article/stage-2-in-the-design-thinking-process-define-the-problem-and-interpret-the-results を元に意訳・リライティング

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