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創造性に対するバイアスをやわらげるアプローチ

2019.2.18

TUDは、つくることとうごかすことを通じて、価値の好循環をもたらしていきたいと考えています。その根底には、人々の創造性を引き出し、あらゆる人々が創造性を発揮する社会づくりに貢献していきたいという想いがあります。
これからの時代、個々人の創造性の発揮がさらに求められるといわれています。しかし、創造性を発揮するような場面で、自分自身や他人の「創造性に対するバイアス」がその発揮を阻んでしまう場合があります。
今回は、創造性に対するバイアスに着目し、それをやわらげるアプローチについて考察しています。



■自発的に学び、動き、創造性を発揮することが求められる時代

インターネットやスマートフォンの普及、人工知能、FinTech、IoTなど様々な領域でのテクノロジーの進化によって、益々変化のスピ―ドが速くなっています。それに伴い、人々の価値観も変化し、当たり前だったことが当たり前ではなくなる、過去の延長線上では解決できない問題に直面する時代を迎えています。
そのような時代には、各個人が創造性を発揮し、これまでとは異なる価値観や枠組みで考え、行動することが求められています。
世界経済フォーラムの「The Future of Jobs Report 2018」では、2018年と2022年に求められるスキル・トップ10が発表されており、ランキングが上昇した項目を見ると、2022年には、自発的に学び、動き、創造性を発揮することが求められると考えられます。

【出展】Future of Jobs Survey 2018, World Economic Forum p.12 Tableを和訳・変動を追記



■創造性に対するバイアスの存在

これからの時代に求められている創造性ですが、その発揮が阻まれてしまうことがあります。
デビッド・バーカス著「どうしてあの人はクリエイティブなのか?」の中で、コダックの事例が紹介されています。

“1975年、コダックの研究室は、はじめてデジタルカメラを開発した。
その路線を追求しなかった。…コダックの経営陣に披露はされたものの、すぐに研究室に送り返され、棚にしまい込まれた。経営陣は、まだまだ当面は解像度に優れるフィルムカメラに歩があると判断した


1975年には、その後、カメラがフィルムからデジタルに移行するとは想像もできなかったのかもしれませんが、これは新しいものよりも、便利で、すでに普及しているものが選ばれた事例です。
このような場面で、新たな創造の可能性を阻んでいるのが創造性に対するバイアスです。
Jennifer S. Muller、Shimul Melwani、Jack A. Goncaloは、“The Bias Against Creativity: Why People Desire but Reject Creative Ideas”(2012)の中で、実験結果から以下のことを述べています。

●新規性の高いアイデアほど不確実性が高いから、新規性より実用性の高いアイデアが評価される傾向にある
● 不確実性を減らす動機が強い人ほど、クリエイティビティにネガティブな連想を持ち、クリエイティブなアイデアに低い評価を付ける
●クリエイティブなアイデアを創出するということより、クリエイティビティを認識し、受け入れる後押しをした方が効果的かもしれない

コダックの事例は、世界的な大企業のことですが、私たちも知らず知らずのうちに、不確実性への恐れを持つようになっています。例えば、こんな経験はありませんか?

本当はチャレンジしてみたいと思っていることがあっても、周囲の人の心配したり、失敗を恐れたりする声に耳を傾けることによって、一歩が踏み出せないことはありませんか?反対に、相手のことを想うあまり、チャレンジに賛成できず、チャレンジを止めてしまったことはありませんか?
そのような時、知らず知らずのうちに、創造性に対するバイアスが働いています。
バイアスによって、誰もが持っているはずの創造性が発揮できなくなったり、誰かの創造性の発揮を無意識に阻んでしまったりすることは、とても残念なことです。


■バイアスはやわらげることができる

M.R.バナージ+A.G.グリーンワルド著「心の中のブラインド・スポット」では、私たちが望まなくてもマインド・バグとして潜在的に持つバイアスを取り除くことは難しいといわれています。
しかし、その作用はやわらげることができるともいわれています。

2016年のハーバードビジネスレビューの記事“Why Diversity Program Fail” (Frank Dobbin and Alexandra Kalev)では、アメリカの企業で1960年代から実施されてきた人種や性別に対するバイアスへのアプローチが効果的な場合と、そうでない場合について分析されています。
1960年代以降から、企業が変わらず行っているダイバーシティトレーニングにおけるバイアスの軽減、採用試験などの強制的な方法は、むしろバイアスを強化し、効果的ではないことがわかりました。一方で、800社のUS企業と、何百人ものラインマネジャーやエグゼクティブへのインタビューを通じて、コントロールを弱めた方が効果的であることが見えてきたそうです。
問題解決への参画、業務上でのマイノリティや女性への関わり、社会的説明責任の促進の方が効果的であることがわかりました。たとえば、無意識バイアスの対象である女性や黒人へのEngagementを高める施策がダイバーシティ推進に効果を発揮しました。

このような無意識バイアスへのアプローチにヒントを得て、創造性に対するバイアスをやわらげることができれば、自分の創造性を取り戻すだけでなく、他人のクリエイティブなアイデアももっと受け入れやすくなるのではないでしょうか。

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