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【完全解説】プロトタイピングを理解するための3つの視点〜開発プロセス、分類、役割〜

2021.1.29


デザイン思考やシステム開発の現場で用いられるプロトタイピング。その重要性は高く、ビジネス界隈でもプロトタイピングに関する新規サービスが活発に立ち上がっています。

・電通デジタルが、2019年に新規サービスの立案からプロトタイピングを行う、「Service Prototyping Studio」を設立
・2020年4月、dotstudio株式会社が、日本初のプロトタイピング専門スクールを開校
・2020年6月、『WIRED』日本版とクリエイティブ集団PARTYが「WIRED Sci-Fiプロトタイピング研究所」を設立
・2020年9月、新規事業支援ベンチャーのRelicが、ノーコード開発・ローコード開発を駆使したプロトタイピングサービス「Agile Prototyping Lab」をスタート

また、MITの研究チームが出した論文でも、“プロトタイピングは新製品開発において最も重要なアクティビティの一つである”(*1)と記載があるなど、アカデミック文脈でも重視されています。

ただ、プロトタイピングの認識は歴史的な背景もあり、人により異なることも多く、定義もかなり幅が広く、わかりづらくなっているのが現状です。(定義と歴史についてはこちらの記事をご参照ください)

このわかりづらいプロトタイピングを理解するための、プロトタイピングに関する3つの視点についてご紹介します。



■ プロトタイピングを理解するための視点1:「開発プロセス」

まずは、プロダクトやサービスなどの「開発プロセス」です。開発プロセスを、先行研究をベースに以下のように整理しました(*2)。

開発プロセス

まず、アイデアの創造を行います。そのアイデアをベースにして、価値の設計やターゲティングなども含む、コンセプトの策定を行います。そして、そのソリューションやプロダクトに必要なものや構造を、上位レイヤーで設計する概念設計を行ったのち、機能なども含めて細かく設計する詳細設計を実施します。そして開発し、結合を実施する。そしてそれらを生産し、市場投入を行います。アジャイルなどのイタレーティブな開発手法では、この概念設計と詳細設計と結合を開発しながらグルグル回すイメージです。

プロトタイピングを理解するための視点として、まずはこの開発プロセスを頭に入れておきます。どのように使用するかは後ほどご説明します。



■ プロトタイピングを理解するための視点2:「分類」

次の視点は、「分類」です。プロトタイピングを大きく分けると、「価値」と「実現可能性」と「ルック&フィール」、それらをすべて含んだ「インテグレーション」に分けることができます(*3,4)。

分類

価値のプロトタイピングは、現段階のアイデアやソリューションに対して、価値があるかを確認したり、価値を生み出したりすることに関わるものです。そのため、価値がないものの実現可能性や見た目の部分を試しても意味がないため、まずは価値のプロトタイピングからスタートします。



分類

価値のプロトタイピングの実例でいうと、こちらの新しい手術器具のプロトタイピングがあります。こちらは、IDEOというデザイン会社が、新しい手術器具を開発するためのプロジェクトで、ミーティング中に作成したプロトタイプです(*5)。両手で用いる手術器具ではなく、片手で用いる手術器具、というコンセプトをクイックに試すためのもので、会議室にあったホワイトボード用のペンとイレーザー、洗濯バサミをくっつけて、片手で操作する場合はどんなものになるかを試したものになります。これは、片手で操作する手術器具というアイデアにそもそも価値があるのかを確認したいために制作されています。そのため、価値に関わるプロトタイピングと考えられます。


次が、実現可能性のプロトタイピングです。これは、現時点のアイデアやソリューションが、実現可能性があるかに関するプロトタイピングで、例えば、新規性が高い機能が存在していた場合に、実際にその部分だけコードを書いてみる、などが当てはまります。

分類



次が、ルック&フィールのプロトタイピングで、見た目や触って見た感覚に関するものです。例えば、椅子をつくりたい時に、スケールを小さくして形を確認してみたり、素材を用意して実際に触ってみたりするプロトタイピングがあてはまります。

分類



最後が、すべてを統合したインテグレーションとしてのプロトタイピングです。ほぼ完成しているベータ版やテストアップしているアプリや、実物大の椅子などが該当します。これを用いることで、価値もわかるし、実現可能性もわかるし、見た目や感覚の部分もわかる、というような完成度が高いものです。

分類

ただ、これを作成するのは工数がかなりかかるので、プロジェクトの後半になります。プロジェクトの後半、というのが開発プロセスに相当します。そこで、この分類と、先ほど記述した開発プロセスを一緒に検討してみます。



■ プロトタイピングを理解するための視点1&2:「開発プロセス」と「分類」

以下が、開発プロセスと分類を統合したイメージ図です。

分類

まず、価値のプロトタイピングからスタートすると説明させていただいたように、アイデアの創造やコンセプトの策定など、プロジェクトの早い段階で、まずは価値についてプロトタイピングをします。アイデアやコンセプトが固まっていなく、価値も見えていない段階で、実現可能性や見た目や感覚のプロトタイピングをしても、価値がそもそもなければ、意味がなくなってしまいます。アイデアやコンセプトがある程度固まり、設計フェーズに移行したタイミングで、実現可能性や見た目や感覚のプロトタイピングを行なっていきます。この時点で価値が確定している場合もあれば、まだ価値の調整を行う必要がある場合もあります。そして、実現可能性と見た目や感覚も固まってきたら、それぞれを統合して、インテグレーションのプロトタイピングを実施します。

このように、開発プロセスに応じて、必要とされるプロトタイピングは異なるため、現在、アイデアやソリューションの開発プロセスはどのくらいで、それに応じて必要なプロトタイピングは何なのか、を常に意識する必要があります。



■ プロトタイピングを理解するための視点3:「役割」

そして、最後の視点がプロトタイピングの「役割」です。代表的な役割として、「コミュニケーションにつながること」「意思決定につながること」「学習につながること」が挙げられます。

分類

この3つの役割は、コロラド大学の研究チームが、民間企業で2年に渡り、実際に実施されたプロトタイピングを調査した結果をまとめたものです(*6)。
コミュニケーションは、共通の考えを形成したり、交渉や説得をしたりすることができます。意思決定は、小規模であれ大規模であれ、前に進むか、止めるか、戻るかを決めることができます。学習は、新しい情報を学ぶか、すでに学んだ知識の補強を行うことができます。



■ プロトタイピングを理解するための3つの視点の統合

そして、今の役割を、開発プロセスと分類のイメージに当てはめると、このようになります。

分類

価値を確かめるためのプロトタイピングでも、その役割は、コミュニケーションにつながる場合もあれば、意思決定につながる場合もある。学習につながる場合もある。他の分類に関しても同様です。つまり、プロトタイピング、といっても、「開発プロセス」「分類」と「役割」を意識しなければ、同じことを話すことはできない。注意が必要です。

分類

例えばなのですが、プロトタイピングについてのやりとりで、
Aさんが、「とりあえずプロトタイピングしてみませんか?」という。それに対してBさんが「いや、プロトタイピングは、ある程度検証する仕様を固めてからでないと。時間の無駄になっちゃう可能性もあるのではないでしょうか?」、と返す。 それに対してAさんが「うーん、とりあえず仕様とかいいので、認識ずれてるかもですし、手を動かすことが重要だと思いますが。」

少し、すれ違っちゃってしまっているかと思います。このようなすれ違いが、プロトタイピングで起こってしまったとします。この場合、先ほどの3つの視点で考えると、Aさんは開発プロセスの早い段階での価値のプロトタイピングを重視し、役割でいうと特にコミュニケーションを重視していることがわかります。逆にBさんは開発プロセスの後期で、価値のプロトタイピングは意識しておらず、実現可能性やインテグレーションのプロトタイピングを重視していることがわかります。役割としては、コミュニケーションにつながることなどは考えていないと思われます。


以上、非常に重要だけれどもわかりづらいプロトタイピング。そのプロトタイピングを理解するための3つの視点である、「開発プロセス」「分類」「役割」についてご説明させていただきました。

他にも、「ではどのようにプロトタイピングを行うか?」という疑問に対して、「プロトタイピング戦略」という視点で回答している記事
「プロトタイピング戦略」を立てて、プロトタイピングの効率性と生産性を最大化。

3つの視点で紹介しきれなかった観点の「忠実度」に関する記事もございます。ぜひご確認ください。
プロトタイプの忠実度で分かりやすく図解。ソフトウェアプロトタイピングツール11選。〜Prott、inVision、Proto Pie ・・〜





(*1) Wall, M. B., Ulrich, K. T., & Flowers, W. C. (1992). Evaluating prototyping tech- nologies for product design. Research in Engineering Design, 3(3), 163e177.
(*2) Mitomi,K. et al.,(2019)”Effects of Prototyping on the Solution Development Process: Through the actual application to 24 prototyping of "Your Pleasure"”, 41st Annual Conference of Japan Creativity Society.
(*3) Houde, S., & Hill, C. (1997). What do prototypes prototype?. In Handbook of human-computer interaction (pp. 367-381). North-Holland.
(*4)This is Service Design Doing サービスデザインの実践 (日本語) 単行本、ビー・エヌ・エヌ新社、2020/2/18
(*5)Kelley, Tom, and Jonathan Littman. "発想する会社!-世界最高のデザイン・ファーム IDEO に学ぶイノベーションの技法." ACM Transactions on Computer-Human Interaction (TOCHI) 7.1 (2000): 114-138.
(*6) Lauff, Carlye & Kotys-Schwartz, Daria & Rentschler, Mark. (2017). What is a Prototype?: Emergent Roles of Prototypes From Empirical Work in Three Diverse Companies. 10.1115/DETC2017-67173.

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