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日本創造学会第41回研究大会にて、プロトタイピングの事例の評価・分析に関して発表

2019.12.7

2019年9月28・29日、石川県の北陸先端科学技術大学院大学にて、日本創造学会第41回研究大会が開催されました。29日の国際セッションにて、三冨・赤木がそれぞれ執筆した投稿論文について発表し、赤木はBest Presentation Awardを受賞しました。

投稿論文では、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の一員として、ミラノデザインウィークに出展した展示物の開発過程で創った24のプロトタイピングについて評価・分析しました。論文の内容を一部ご紹介します。

■研究対象について
ソリューションの開発プロセスが進行する中で、適切な手法が選択され、適切なタイミングや方法でその手法が活用され、開発が進みます。市場に投入できるレベルのソリューションに改良していくためには、適切なプロトタイピングを実施する必要があります。 プロトタイピングは、製品・サービス開発プロセスで使用される手法の1つ。プロトタイピングのソリューションに対する好影響やその重要性は複数の論文で示されています。[1] [2] [3]
先行研究の中では、開発プロセスの初期段階、コンセプト段階でのプロトタイピングの重要性が説かれたものが見られます。[3] [4]

今回、日本創造学会で発表した論文では、初期段階だけでなく、開発プロセス全体においてプロトタイピングを実施した事例を取り上げ、評価・分析しており、その点が特徴的です。


■ミラノデザインウィークの出展概要
ミラノデザインウィークは、世界的な家具の見本市 “Salone del Mobile. Milano”に伴いミラノ市内で開催されます。市内の至るところで、さまざまな企業が自社のコンセプトを発信するために出展します。グローバルに展開するハイブランド、日本のメーカー、海外の製薬会社、グローバルIT企業など、多様な企業が出展しています。世界中のデザイナーたちが思考を凝らし、研ぎ澄まされた表現が街中に溢れています。


慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科から4チームが協働で出展しました。三冨・赤木が所属するチームは「Your Pleasure」という鏡と木のブロック、鏡の空間を使った体験をデザインし、展示しました。

6日間の展示を通して、たくさんの方々に体験いただき、517名もの方々にアンケートのご協力いただきました。そして、約60%の体験者が、「協働を通じて想像を超えるものを創ることができた」と回答いただきました。

展示が最終形に至るまで24のプロトタイピングを創りました。 最初のプロトタイピングは、コンセプト「協働するブロック」を画面上で再現するものでした。まずはチーム内で実施し、参加者の感情をテストしました。

テストの結果、協働による意外性に面白さがあることを確認しました。そして、次は様々な素材のブロックを使ったプロトタイピングを実施しました。

別の場所にいる人との協働を実現するテクノロジーを探す中で、「鏡」を使うアイデアが生まれました。鏡の置き方や使い方を試す中で、鏡そのものが不確実性を高めることに気づき、今回の展示の重要な要素である「鏡」を使うことが決まりました。その後は、鏡の空間、鏡の空間の中に置くブロック、ゲームの設計など、複数回のプロトタイピングを実施し、最終形まで至りました。


■24のプロトタイピングの評価
赤木は、 “The Evaluation of 24-prototyping of “Your Pleasure” using Context Diagram and Use Case Description”と題して、プロトタイピングの評価を行いました。 24のプロトタイピングのプロセスを記述した後、コンテクスト図とユースケース記述の上に24のプロトタイピングを配置し、評価しました。

その結果、コンテクスト図とユースケース記述への配置を通じて、2点が明らかになりました。

①各プロトタイピングが、ソリューション全体のどの「部分」を検証したか。
  →個別では検証できていない「部分」を見つけることができました。

②Integrated Prototyping(様々な機能を統合したプロトタイピング)がどのように進捗したか。
  →Integrated Prototypingは展示物の完成までに3回実施しました。開発プロセスが進むとともに、Integrated Prototypingで統合されるプロセスが長くなったことがわかりました。他の事例では、統合されるプロセスが短くなる場合や、要素が少なくなる場合もあるかもしれません。

本研究では、コンテクスト図とユースケース記述を使って、実際のプロトタイピングの事例を評価しました。今後は、開発プロセスの中で、コンテクスト図とユースケース記述を作成し、「部分」と「全体」を把握しながら、プロトタイピングを重ねていくことを検証していきたいと考えています。
どの部分のどんな価値をプロトタイピングで検証すべきかが明らかになると、プロトタイピングの「どこから始めていいかわからない」問題を解くことに繋がるのではないかと考えています。

■24のプロトタイピングの分析
三冨は、 “Effects of Prototyping on the Solution Development Process: Through the actual application to 24-prototyping of “Your Pleasure””と題して、24のプロトタイピングの開発プロセスへの効果について分析しました。
まずは、24のプロトタイピングを先行研究で設定された種類に分け、開発プロセスにマッピングしました。

分析の結果、2つの効果がわかりました。

①開発中のソリューションの調整が必要な領域を理解させ、開発プロセスを進行させる
②特定のプロトタイピングは開発プロセスの停滞から抜け出させ、進行させる

具体的には、開発が停滞している場合には、「Darkhorse Prototype」を実施することで、ソリューションの調整が必要な領域を理解させ、開発プロセスの停滞から抜け出させることにつながります。

■今後の展開
TUDでは、今後もプロトタイピングの研究を進めていきます。研究を活かし、プロトタイピングを軸にしたワークショップやサービス開発も展開しています。


[1] Kershaw, T., Hölttä-Otto, K., Lee, Y, S., (2011). The Effect of Prototyping and Critical Feedback on Fixation in Engineering Design.807.
[2] Bushnell,T.,Steber,S.,Matta,A.,Cutkosky,Mark.,Leifer,L.(2013). USING A "DARK HORSE" PROTOTYPE TO MANAGE INNOVATIVE TEAMS. 10.13140/2.1.2361.7602.
[3] P,A,Dearnley.,P,J,Mayhew.(1983). In Favour of System Prototypes and their Integration into the Systems Development Cycle. The Computer Journal, Volume 26, Issue 1,36–42.
[4] Ogawa, R.(2019) Design Effectiveness in the Early Stages of the Product Development Process: Value of Semantic Activation in Haptic Perception. Japan Marketing Journal, Vol. 38 No. 4, 47-60.

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