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徳島県小松島市「こまつしまリビングラボ」最終報告会:年代や価値観、文化が異なる多様性が高い参加者でアイデアを創出するためのワークショップデザイン

2020.6.20

ワークショップ実施時

2020年2月16日に「こまつしまリビングラボ 最終報告会」が開催されました。 各チャレンジのリーダーからの活動報告のあとに、約1年間取り組んできたアイデアを広げ、深めることを目的としたワークショップのデザインとファシリテーションをTUDの赤木が担当しました。 本記事では、開催したワークショップについてご紹介します。

■ こまつしまリビングラボのこれまでとこれから

2年目の活動の最終段階を迎えた「こまつしまリビングラボ」。「こまつしまリビングラボ」では、小松島市民が主体となり、チャレンジ・オーナーが発案したチャレンジを実行するチーム(チャレンジ・チーム)を結成し、市民や大学生、国内外の専門家を巻き込みながら地域の課題解決に取り組み、最終報告会では5チームが活動内容を共有し、チャレンジ・チームに属していない市民や大学生も一緒になってアイデアの創出に取り組みました。

リビングラボは、様々なステークホルダーがかかわることが特徴です。先行研究 (*1)では主に4つの役割があると言われています。

【4つの特徴】
1. 情報提供者(informant)
生活者の実生活の実態を明らかにする役割。生活の「専門家」として、当事者の知識や理解,意見や欲求などを提供。

2. 試験者(tester)
実生活の場で製品やサービスやプロトタイプを試用し検証する役割。場所は理想的には実生活であり、家や職場や教育・福祉の現場などが想定されるが、実生活での文脈に近いのであれば仮想的な場も。

3. 貢献者(contributor)
プロジェクト運営者の依頼に従い,製品やサービスの開発プロセスに関与する役割。自ら主体的に仮説探索や解決策検討を行うわけではなく、運営の支援や情報提供者,試験者なども。

4. 共創者(co-creator)
プロジェクト運営者と対等なパートナーであり,主体性を持って情報提供や仮説探索,解決策検討を行う役割。

チャレンジ・チームに属する「共創者」に加え、「情報提供者」として市民や大学生が参加する場を最大限活かすために、既存の枠組みからはみ出たアイデアの発散が行われるようなワークショップをデザインしました。

ワークショップデザイン概要

今回のワークショップで、各チームが視野を広げ、アイデアを創出し、さらにそれを深めていく可能性に気づき、次なるフェーズである実証実験へと進んでいきます。

■ コンセプトの再考「当たり前を疑う」

長期間同じ課題の解決に取り組んでいると視野が狭くなり、すごくありふれた、実現可能性ばかりが高まったアイデアに落ち着いてしまうことはありませんか?長期間取り組んできたからこそ迷い込んでしまった状態から抜け出すために、「当たり前を疑う」ためのワークを実施しました。

ワークショップ実施時写真
ワークショップ実施時写真


具体的には、事前に伝えた「質より量」「アイデアに乗っかる」などのコツを意識し、各チャレンジがイノベーションを起こしたい対象(海岸/こども園/酒蔵ホテル/サイクリング)の当たり前と、それをくつがえすコンセプトを創出します。

ワークショップ実施時スライド
ワークショップ実施時スライド

たとえば、横須海岸の活用を目指すチームからは「美しい海のゴミ」、町にこども園をつくろうとしているチームからは「こどもから学ぶこども園」、小松島市のサイクリングコースを広めることを目指すチームからは「遅いほど勝つレース」など、各チームからたくさんのコンセプトが出ました。

最初は単純な当たり前の裏返しのコンセプトが中心でしたが、アイデアに乗っかり合うことでアイデアが広がり、会場からは笑いが絶えませんでした。


■ アイデアの発散:「強制連想法」

コンセプトの再考では「自由連想法」であるブレインストーミングを実施しましたが、アイデアの発散では「強制連想法」を実施しました。ブレインストーミングではなかなかアイデアが出ない、という場合に「強制連想法」を実施してみることをおすすめします。

マトリックスを用意し、縦軸と横軸に要素を記入し、それらを掛け合わせたアイデアを考えます。創造性は「1どうしの組合せ。組み合わせで新しいものを創り出す」(*2)と定義されているように、強制的に連想を生み出す方法です。

今回は、横軸にはコンセプトの再考で出したお気に入りの「コンセプト」、縦軸には「アイデアかるた」を置きました。

ワークショップ実施時スライド

前日から事務局メンバーで仕込んだ「アイデアかるた」を活用したところが今回のワークショップのポイントの1つで、アイデアかるた」は、小松島の名産(やまもも、たぬき、すだちなど)、ドローン、ロボットなどのテクノロジー、季節、日常にあるもの(学校、病院など)を手描きし25枚用意しました。
絵を使うことでイメージの想起を促し、「こんなものも使えるかも!」とアイデアを膨らますことを目的としました。また、チームでかるたの争奪戦を行うことでゲーム性を持たせ、思考が柔らかくなることも意図しています。


ワークショップ実施時スライド
ワークショップ実施時スライド
ワークショップ実施時スライド

■ アイデアの収束:発表

最後に、各チームからはコンセプトと強制連想で生まれたアイデアの一部を発表、どのチームからも地域の魅力を活かし、各チャレンジのイノベーティブさを増強するアイデアが出ました。

例えば、海岸チームから発表された「海の音を録音する灯台。海の音を聴く音楽祭」は、海岸にある当たり前のものをいつもと違う方法で活用し、賑わいのある美しい海岸を目指すチームの目的に一歩近づくアイデアでした。その後、海岸チームでは「海岸×アート」のアイデアが生まれ、プロトタイピングに向けて動き出しています。

ワークショップ実施時スライド

■ ワークショップ・デザインのポイント

今回のワークショップ・デザインで最も難しかったことは、ワークショップ参加者の多様性です。90分という短い時間で、10代から70代までバックグラウンドが異なり、価値観や文化も異なる参加者が活発に、自発的にアイデアを出し合い、共創する状況をつくるか。そこで、「アイデアかるた」を取り入れ、視覚的なイメージや楽しい体験を共有することでアイデアが出しやすい雰囲気の醸成を目指しました。
また、ファシリテーションでは、発表以外の場面でも全体への発言を引き出し、ワーク中も各グループの様子を覗きながら時には実況中継を交えて、会場がひとつになるような働きかけを心がけました。 その影響もあり、ワークショップの終了後にチャレンジを推し進めるリーダーから「チームの中で閉じていたアイデアが広がり、励まされたし元気が出た!」というコメントもいただけました。
Tsukuru to Ugoku Designでは、2020年度も、街中での実証実験に向けて「こまつしまリビングラボ」をサポートしていきます。





(*1) Leminen, S., Westerlund, M., and Nystrom, A.-G., (2014).On Becoming Creative Consumers? User Roles in Living Labs Network. International Journal of Technology Marketing, 9(1), 33-52
(*2) 大西・新山 (2018) 学校教育における「創造性」の変遷に関する一考察, Bulletin of Aichi Univ. of Education, 67 (Art, Health and Physical Education, Home Economics and Technology), pp. 1-9


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