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市民を中心とした共創手法「リビングラボ」。徳島県小松島市での「こまつしまリビングラボ」に参画しました。

2020.4.9


2019年10月13日・14日に開催された「こまつしまリビングラボ 社会協創キャンプ」。こまつしまリビングラボ 社会協創キャンプでは、テーマを持った「チャレンジ・オーナー」がプレゼンテーションを行い、市民参加者の中から仲間を集めます。そして、チームを組み、課題の設定からプロトタイピングまでを3日間の社会共創キャンプで実践します。TUDから赤木がファシリテーション兼通訳を担当しました。
本記事では、こまつしまリビングラボの事例紹介とともに、近年国内でも注目が集まっているリビングラボとは何かについてご紹介します。

■リビングラボとは
2006年以降、北欧、オランダなどヨーロッパでは広く実施されているリビングラボ。日本では2019年ごろから国内でもさまざまな動きが始まっています。
リビングラボは地域で暮らす市民が中心となって社会課題を解決するイノベーションを起こす手法の1つです。多くの社会課題を抱える日本の都市・地域においてもさらに活動が増えていくと考えられます。
赤坂他(2017)はリビングラボを「市民やユーザを長期的に巻き込みながらサービスを共創する手法」と定義し、以下の4つの特徴があると述べています。

【4つの特徴】
1. ユーザの長期的関与
2. パートナーとしてのユーザ
3. 実生活環境の利用
4. 多様なステークホルダーの関与
(赤坂他、2017)

また、Pallot (2011)は、「User Centered Open Innovation Ecosystem」と定義しています。2019年に発行されたWISE PLACEでは、「都市生活の現場での共創型知識創造」と定義されています。いずれの定義においても、ユーザである市民が中心となり、長期的に共創していく場であるといえます。


■リビングラボにおけるプロトタイピングの重要性
Schuurman et al. (2016) は、2011年から2015年の間に、EUを中心に活動するiMinds Living Labが実施した27のリビングラボの事例研究を行いました。その結果、以下3点をリビングラボ成功の秘訣だと述べています。

1. 「実生活(real-life)への介入」「準実験的なデザイン」「マルチメソッドアプローチ」がユーザ貢献の機会を増やし、イノベーションに繋がる。イノベーションに繋がった85%のプロジェクトはこの3要素を有している。

2. 最も良い結果に繋がったリビングラボプロジェクトは、「Experimentation(実験)」に分類されたものだった。リビングラボでは、コンセプトからプロトタイプへの移行する段階が重要である。

3. テスト可能なプロトタイプへの移行が、リビングラボにおける理想的なイノベーションレベルといえる。プロトタイプのテストによる「実生活」への紐づけが、ユーザ貢献のハードルを下げる。

つまり、ユーザである市民がリビングラボにより深く参加することがリビングラボ成功の秘訣であり、市民とともにプロトタイプをつくることで、市民の参加ハードルが下がります。コンセプトをつくるだけでなく、いかにテスト可能なプロトタイプをつくるかがポイントだと考えます。


■こまつしまリビングラボ
国内でも先駆的にリビングラボを開催した「こまつしまリビングラボ」についてご紹介します。
こまつしまリビングラボ(KLL)は2018年から始まり、今年度は2回目の開催でした。徳島大学が中心となり、地元住民、行政、学校、企業から多様な参加者が集まる場となっています。キャンプの前後では、徳島大学 人と地域共創センターが中心となり、事前勉強会から取り組みのフォローアップやサポートを実施します。


KLLは豪華な特別ゲストと、国内外から集まるファシリテーターに特徴があります。特別ゲストとして、オランダを中心に活動するヨーロッパのイノベーションキャンプ専門家、ポートランド州の鉄道会社TriMetでまちづくりや地域デザインに取り組んできた先駆者が来日します。さらに、ファシリテーター兼通訳として、アメリカ・オレゴン州ポートランドで活躍するランドスケープデザイナー、建築家、日本で場づくりやまちづくりに取り組むメンバーが徳島に集まります。

キャンプでは、特別ゲストとファシリテーター、徳島大学が一緒にワークショップを企画し、市民の方々がより参加しやすいようにサポートとフォローを行い、アイデアを形にしていきます。

具体的には、先述したように、テーマを持ち寄る「チャレンジ・オーナー」がプレゼンテーションを行い、仲間を集め、課題の設定からプロトタイピングまでを3日間の社会共創キャンプで実践します。

キャンプの最終日にはプロトタイプがいくつも完成しました。


プロトタイプが出来上がることで、多様な年齢、バックグラウンドを持つ市民に一体感が生まれ、参加のハードルが下がることを実感しました。海外で実践されてきたメソッドを活用しながら、「地域の課題を解決したい」「より暮らしやすい街にしたい」「より活気のある街にしたい」という市民の未来への想いがひとつになる3日間でした。

プロトタイピングとファシリテーションを得意とするTUDでは、今後もこまつしまリビングラボをサポートするとともに、他の地域での展開の可能性についても模索していきます。




【参考文献】
・赤坂文弥、木村篤信(2017)「リビングラボの方法論的特徴の分析―日本におけるリビングラボ事例の調査を通じて―」、日本デザイン学会 デザイン学研究 2017、p.22-23
・Marc Pallot, Brigitee Trousse, Bernard Senach, Dominique Scapin (2011) “Living Lab Research Landscape: From User Centered Design and User Experience towards User Cocreation”, HAL Id: inria-00612632
・一般社団法人Future Center Alliance Japan (2019) 「WISE PLACE ® LIVING LABS リビングラボ実践ガイド」
・Dimitri Schuurman, Lieven De Marez, and Pieter Ballon (2016) “The Impact of Living Lab Methodology on Open Innovation Contributions and Outcomes, Technology Innovation Management Review”, Volume 6, Issue 1, p.7-16

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